FXの初心者の中にとって、「売りから入る取引」というものが、よくわからない人もいるかもしれません。
しかし、FXで売りから入る取引(空売り)は、相場の下落局面でも利益を狙える有効な手法です。覚えておいて損はありません。
今回は、FXの空売りの仕組みや売りから入るメリットを解説し、一般的な売りのシグナルを捉えられるように紹介します。
この記事を読めばFXで「売りから入る取引」の基本的な知識が身につき、相場の動きに合わせて柔軟に取引できるようになるでしょう。
- エントリー:取引開始を意味する、新規ポジションを保有すること
- エグジット:保有しているポジションを決済すること
- ポジション:買いや売りのエントリーを行い、未決済で保有している状態
FXで売りから入る「空売り」とは?
FXの「空売り」は、実際には持っていない通貨を、買い戻すことを前提に、先に売る取引です。
FXでは、実際に通貨を交換せずに取引における損益だけを受け渡す「差金決済」という仕組みです。
そのため、手持ちにない通貨を「空売り」して、損益を受け取ることが可能です。
買いポジションと売りポジション
FXで新規に買いや売りのエントリーをし、未決済で保有している状態を「ポジション」といいます。
ポジションには、「買いポジション」と「売りポジション」があります。
買いポジション(ロングポジション)
買いポジションは新規で買い注文を出した後の、決済前のポジションです。
新規エントリー時よりレートが値上がりすれば利益となります。
売りポジション(ショートポジション)
売りポジションは新規で売り注文を出した後の、決済前のポジションです。
新規でエントリーしたときよりも、レートが値下がりすれば利益となります
つまり、FXは空売りをした後、レートが値下がりしている状況で利益を狙うことが可能です。
FXの空売りの仕組み
FXの空売りの流れは、以下のとおりです。
- 証拠金を差し入れる
- 通貨を売る
- 通貨を買い戻す
新規エントリーしたレートより値下がりしたタイミングで決済すると、利益を得られます。
たとえば、米ドル/円を新規に100円で売りエントリーした場合、95円に値下がりしたタイミングで決済すると5円の利益となります。
反対に、103円に値上がりしたところで決済(損切り)すると、3円の損失となってしまうわけです。
FXと株の空売りの違い
空売りは株式の信用取引でもできますが、株とFXの空売りには異なる点があります。
株とFXの空売りの主な違いは、以下の表のとおりです。
FX | 株式 | |
---|---|---|
仕組み | 証拠金の仕組みを利用して売りポジションを取る | 借りた株を売却し、後日買い戻して返却する |
決済期間 | 期間制限なし | 制度信用取引は6ヶ月以内に決済しなければならない |
手数料・コスト | スプレッドコスト(売値と買値の差)のみ | 貸株料、売買手数料、信用取引口座管理費用などがかかる |
上記のような違いから、FXの空売りは、株の空売りに比べてより簡単で柔軟な取引ができる点が特徴です。
空売りを利用すれば円高でも円安でもFXで利益を狙えます。
為替レートは上昇より下落のスピードが速い
FXの空売りでは、上昇より下落のスピードが速い点を理解しておく必要があります。
というのも、人は損失を避けようとする傾向があるため、価格が下落し始めると多くのトレーダーが一斉に売りを急ぎ、「売りが売りを呼ぶ」状況になりやすいためです。
SNSなどの普及によって情報のタッチポイントが増えている現在は、その傾向がますます顕著になっています。
上記の特性から、下落の場合は上昇よりも短期間で大きくレートが動きやすく、売りは買いに比べて短時間で利益を得られる可能性があります。
このような「空売り」の特性を理解し、適切なリスク管理をしながら上手に活用できれば、利益を得られる可能性が高まります。
FXで売りから入るメリットとは?
FXで売りから入る「空売り」のメリットを確認しておきましょう。
相場が下落していても利益を狙える
空売りのメリットは、相場が下落していても利益を狙える点です。
FXの空売りは株のように現物を借りる必要はなく、買いと同じように簡単に注文を出せます。
たとえば、米ドル/円が1米ドル100円の時に売りエントリーしたとします。
その後、円高ドル安が進行して1米ドル90円まで下落した場合、1米ドルあたり10円の利益を得られます。つまり、相場の下降トレンドを的確に捉えて空売りすれば、下落局面でも収益を上げられるのです。
一方、株式の現物取引のように買いポジションしか取れない場合、相場が上昇しているときにしか利益を得られません。
しかし、空売りができるFXでは相場のトレンドにかかわらず、収益のチャンスが広がります。
FXで売りから入る注意点は?
FXで売りから入る(空売り)方法で収益チャンスが増えますが、注意点もあります。
マイナススワップが発生する可能性がある
FXの空売りには、マイナススワップという金利差による損失が発生する可能性がある点に注意が必要です。
スワップとは、2国間の金利差によって発生する調整分の支払いまたは受け取りのことです。
FX取引では金利の高い通貨を売って、金利の低い通貨を買うと、毎日金利差分の支払いが発生します。これがマイナススワップです。
マイナススワップは、日本円よりも金利の高い通貨を空売りして日をまたぐと発生します。
たとえば、2024年5月15日現在、楽天FXでは米ドル/円の1万通貨あたりのスワップポイントは買いが214円、売りが-220円です。
この場合、仮に同じように積み重なっていくと仮定すると、100日で22,000円のマイナススワップが発生します。
長期にわたって保有すると、損失も積み上がっていきます。そのため、売りポジションは早めに決済するほうが無難です。
下降トレンドが続いて空売りでマイナススワップが発生する場合、デイトレード(その日のうちに決済を終了し、利益や損失を確定すること)を中心にしたほうがよいでしょう。
相場が上昇トレンドになると損をする
FXの空売りの最大の注意点として、「相場が上昇トレンドになると損をする」という点が挙げられます。
空売りは、将来の値下がりを予想して行う取引です。しかし、予想が外れて値上がりしてしまうと、損失が膨らんでしまう可能性があります。
たとえば、米ドル/円が1米ドル100円の時に売りエントリーしたとします。その後、105円まで上昇した場合、1米ドルあたり、5円の損失となります。上昇トレンドが続けば、損失はさらに拡大していくでしょう。
空売りは、買いポジションと同様にリスク管理が非常に重要です。損切りラインを設定し、上昇トレンドに転じた際には決めた水準で速やかにポジションを決済することが求められます。
損切り:含み損を抱えているポジションを決済し、損失を確定させること
含み損:未決済のポジションに損失が出ていて、決済すると損失が発生する状態
値下がりが長期か短期かを見極める必要がある
FXで空売りをする場合、値下がりが長期的なトレンドなのか短期的な調整なのかの見極めが重要です。
値下がりの期間の予測により適切なタイミングで決済でき、利益を最大化できます。
空売りでエントリーする場合、値下がりの原因を分析すると一時的なものか長期なのかを判断できます。
値下がりの原因にはファンダメンタル分析が有効で、取引タイミングの判断にはテクニカル分析が役立ちます。
テクニカル分析とファンダメンタル分析を組み合わせ、総合的に判断することが適切なポジション取りと利益の最大化につながるでしょう。
テクニカル分析:チャートの過去の値動きから将来の値動きを分析する方法
ファンダメンタル分析:国の政治や経済状況など、為替市場に影響を与えるさまざまな要素を分析して相場を予測する方法
FXで売りのタイミングを見極める方法
FXで売りエントリーする場合のタイミングを見極める、テクニカル分析の売りシグナルを紹介します。
ただし、売りシグナルが出ているからといって、必ず値下がりするとはかぎりません。
ファンダメンタル分析など、他の手法と組み合わせるなどして、取引判断をするようにしましょう。
ローソク足の見方
ローソク足チャートは、最も多く利用されているFXのチャートです。
始値(はじめね):期間の最初の価格
高値(たかね):期間内の最高価格
安値(やすね):期間内の最低価格
終値(おわりね):期間の終了時の価格
ローソク足からの売りサインを紹介します。
【大陽線/大陰線(だいいんせん)】
大陽線/大陰線は、他のローソク足に比べて際立って実体部が大きい陰線です。
中でも、大陰線は売りの勢いの強さを示しています。
高値圏で大陰線が出現した場合は、上昇トレンドから下降トレンドへのサインである可能性があります。
【つつみ線】
つつみ線とは、1本目(左側)のローソク足が2本目(右側)のローソク足の実体の中に入っている(つつまれている)、2つのローソク足の組み合わせのことです。
左右のローソク足が「陽線」か「陰線」かによって、複数の組み合わせパターンがあります。
売りのサインとして用いられるつつみ線は、1本目が陽線で2本目が大陰線の組み合わせのもの。高値圏で現れやすいパターンです。
このパターンは、上昇トレンドから下降への転換と見られています。
【はらみ線】
はらみ線とは、2本目(右側)のローソク足が、1本目(左側)のローソク足の実体の中に入っている2つのローソク足の組み合わせのことです。
売りのサインとして用いられるはらみ線は、1本目が大陽線で2本目が陰線の組み合わせが高値圏で現れるパターンです。
このパターンでは上昇エネルギーが尽きたと考えられ、上昇トレンドから下降への転換と見られています。
陽線(ようせん):始値に対し終値が高くなっている足(価格が上昇した足)。色は白や赤系。
陰線(いんせん):始値に対し終値が安くなっている足(価格が下落した足)。色は黒や青系。
大陽線(だいようせん):他のローソク足に比べて際立って実体部が大きい陽線
テクニカル指標
加えて、初心者向けのテクニカル分析の売りサインを紹介します。
【移動平均線】
移動平均線は、一定期間の価格の平均値を線で結んだものです。
期間によって短期、中期、長期の移動平均線に分けられます。
一般的には、短期移動平均線と中期移動平均線の組み合わせで、トレンドの方向性や転換点を探るために用いられます。
また、短期移動線が中期移動線を上から下に突き抜ける状態を「デッドクロス」と呼びます。
デッドクロスは、下降トレンドへの転換を示唆する代表的なシグナルで、デッドクロスの出現が、空売りを検討する機会と捉えられます。
【ボリンジャーバンド】
ボリンジャーバンドとは、移動平均線を中心にその上下に標準偏差から算出した線(バンド)を表示させたテクニカル指標です。
ボリンジャーバンドは、以下の線で構成されています。
・中心線:一定期間の移動平均線
・上側バンド:中心線から一定の標準偏差上に引かれた線
・下側バンド:中心線から一定の標準偏差下に引かれた線
標準偏差:対象のデータの平均値からの散らばりを示す数値
ボリンジャーバンドは、値動きの振れ幅を視覚的に表す指標として用いられます。
上下のバンド幅が広いほど値動きが大きく、狭いほど値動きが小さいことがわかります。
ボリンジャーバンドは、主に値動きの大きさや相場の方向性の分析に用いられますが、売りサインの判断にも利用が可能です。
レートが上側バンドに到達または突破した場合、「買われ過ぎ」と判断され、価格が下落する可能性が高くなります。
チャートパターン
最後に、代表的な売りサインのチャートパターンを紹介します。
【ダブルトップ】
ダブルトップは、チャートパターンの一種で、上昇トレンドの終了や、下降トレンドへの転換を示唆するものとして知られています。
ダブルトップは、以下の3つの要素で構成されています。
- ピーク1:最初に発生する高値
- ネックライン:ピーク1とピーク2の間の安値
- ピーク2:安値を抜けて発生する2番目の高値
ダブルトップが発生し、価格がネックラインを下抜けると売りのシグナルと見なされます。
【ヘッドアンドショルダー】
ヘッドアンドショルダーは、チャート上にある3つの山(ピーク)と2つの谷(ボトム)を結んだ形に見えるパターンを指します。
真ん中の山が最も高く、左右の山がほぼ同じ高さにあることが特徴です。
ヘッドアンドショルダーは、上昇トレンドの終焉を示唆するパターンと一般的に解釈されます。
上昇トレンドが終わり、これから下降トレンドに移行する可能性が高いと判断されます。
ヘッドアンドショルダーは、以下の4つの要素で構成されています。
- ショルダー1:最初に発生する高値(第1ピーク)
- ヘッド:2番目に発生する高値(第2ピーク)
- ショルダー2:3番目に発生する高値(第3ピーク)
- ネックライン:ヘッドを挟んだ2つの安値を結んだ線
ヘッドアンドショルダーが発生し、価格がネックラインを下抜けると売りのシグナルと見なされます。
まとめ
FXの「売りから入る取引」は、下落相場でも利益を狙える魅力的な手法です。
株式の信用取引と違い、買いと同様に簡単に注文できる点が、FXの空売りの特徴です。
空売りで利益を狙うには、売りのシグナルを的確に捉える必要があります。
ローソク足やテクニカル指標、チャートパターンなどを総合的に判断することで、売りのタイミングを見極められます。
まずは簡単な売りシグナルを覚え、実際の取引に取り入れてみましょう。