個人型確定拠出年金(iDeCo)は、自分の老後の資産形成を自らの手で行うための年金制度です。
iDeCoを利用することで、掛け金が全額所得控除の対象となり、運用益(運用する上で増えた分の資産)が非課税になります。
さらに、受け取り時の税制優遇が受けられるため、トータルで大きな節税効果が期待できます。
この記事では、さまざまな職業の方がどれだけの税額を軽減できるのかなど、iDeCoの内容を詳細に解説します。
退職金貯蓄のオプションとして他の制度と比較しながら、iDeCoの魅力を見ていきましょう。
iDeCoについて理解する
まずは、iDeCoの基本的な理解を深め、その利点や具体的な利用方法について詳しく解説します。
iDeCoの制度概要から特徴、さらには職業別の節税効果まで、自分自身の状況に合わせて活用できる情報を見ていきましょう。
iDeCoとは何か?
iDeCoは、日本における個人の老後における資産形成を支援するため、国が推奨している年金制度です。
利用者が自分のペースで資金を積み立て、選択した投資商品に投資し、元金と併せて運用益を手に入れることが可能です。
iDeCoの大きな魅力は、老後の安定した生活資金を自分自身で構築できる点です。
加入者は自由に投資プランを選び、その運用を通じて資産を増やすことができます。
また、受け取りは原則として60歳から開始され、定年後の収入源として機能するでしょう。
なお、iDeCoの加入者が60歳になる前に亡くなった場合、iDeCo口座の資産は売却され、配当金を含む全額が死亡一時金として遺族に支払われます。
この点も、万一の備えとしてiDeCoが支持される理由のひとつです。
iDeCoの税制面上の優遇措置とは
iDeCoの特徴は、税制面での複数の優遇措置にあります。
まず、掛金に関しては全額が所得控除の対象となります。
そのため、加入者の課税所得が減少し、支払う所得税や住民税が軽減されます。
次に、iDeCoを通じて運用される投資から得られる利益(運用益)は非課税です。
株式や投資信託などの運用によって得た利益に対する課税が免除され、より効率的な資産増加が望めます。
さらに、受け取り時の税制優遇も大きなメリットです。
退職後に受け取る年金または一時金は、特定の条件下で大幅な所得控除が適用され、実質的な課税所得が大きく減少します。
以上により、退職時における税負担を大きく軽減することが可能となります。
職業別の所得控除で軽減される税額
iDeCoは、会社員、自営業者、公務員など職業によって掛金の上限が異なります。
併せて、掛金に応じて所得控除額も変動します。
特に自営業者は、他の職業に比べて掛金上限が高く設定されており、より大きな節税効果が期待できます。
1.会社員
掛金上限:月額23,000円
年間控除額:276,000円
節税効果:所得税率にもよりますが、例えば20%の税率であれば、年間約55,200円の節税が可能です。
2.自営業者
掛金上限:月額68,000円
年間控除額:816,000円
節税効果:自営業者は掛金上限が会社員の約3倍に設定されており、より高い節税効果が期待できます。
税率20%で計算すると、年間約163,200円の節税が見込めます。
3.公務員
掛金上限:月額20,000円(2024年12月から)
年間控除額:同じく240,000円
節税効果:会社員と同様、年間約55,200円の節税が可能です。
まずは、あなたの職業に応じた掛け金の上限を知りましょう。
その上で、自身の年収と税率を考慮することで、iDeCoを通じた節税効果を最大限に活用することができます。
節税手段の限られた公務員でも、上記のように年間約数万円の節税ができるのは魅力的です。
iDeCoの節税メリットは主に3つ
この章では、iDeCoの主要な節税メリットに焦点を当て、それぞれの特徴とその効果を解説します。
具体的には、
・掛金の全額所得控除
・運用益の非課税
・受け取り時の大きな税制優遇
という、3つの節税メリットを見ていきましょう。
iDeCoの掛金は「全額所得控除」される
iDeCoにおける掛金は、支払いを行うと「全額が所得控除」として認められます。
これは、掛金が年間所得から直接差し引かれることを意味し、引かれた後の金額に課税されるということです。
例えば、年収600万円の個人が年間20万円をiDeCoに投資する場合、その20万円が課税所得から控除されます。
つまり、年収600万円-20万円=580万円に所得税や住民税が適用されます。
そのため、納税額を抑えられる、という仕組みです。
iDeCoの運用益は「非課税」
また、iDeCoを通じて得られる運用益は、非課税扱いされます。
配当金や売却益が含まれ、通常の投資による運用益に係る税金が発生しません。
例えば、株式投資や投資信託から得られる利益には、20.315%の税金が掛かります。
単純計算で、1,000万円の運用益が出たとしても、約1/5は納税する必要があるということです。
iDeCoの場合、非課税措置によって、同じ運用益であっても増税額は0円です。
iDeCoを利用することにより、効果的な資産増加が期待できるのです。
積立金を受け取り時に大きな控除枠を利用可能
iDeCoからの受け取りは、原則として60歳からに開始されます。
上述のメリットに加えて、この際の税制優遇も大きなメリットです。
iDeCoの受け取り方には、「年金」「一時金」「年金と一時金の組み合わせ」の3種類があります。
それぞれ受け取り方法に応じて、大きな控除枠が設定されています。
特に、「一時金」として受け取る場合は退職所得となるため、所得や勤続年数に合わせて控除額が一定額まで非課税となります。
その上で適用される税率も低く抑えられるため、多くの方の税負担は大幅に軽減されるでしょう。
他の退職金貯蓄オプションとの比較※この章をピックアップする
→老後の資産形成について
この章では、iDeCoを他の退職金貯蓄オプション老後の資産形成における制度について、iDeCo、NISA(少額投資非課税制度)、企業型DC、企業年金と比較して、その特徴と利点を詳しく探ります。
各制度の投資目的、税制優遇、利用期間の制限、利用できる金融商品の種類、加入資格や運用の自由度など、重要な違いを明確にしていきましょう。
→各制度の概要について比較しながらみていきましょう。
※下記表は整理のため一旦作成しましたが、内容に応じて検討できたらと思います。
iDeCo | NISA | 企業型DC(企業型確定拠出年金) | 企業型DB(確定給付企業年金) | |
---|---|---|---|---|
概要 | 老後に受け取れるお金を増やすために、自分で金融商品を選んで運用する、いわば「自分でつくる年金」 | 個人の口座を作って金融商品を運用することで節税効果が得られる、少額から始められる投資方法 | 会社が毎月掛金を積み立てし、会社に勤める従業員である加入者が年金資産を運用する制度 | 将来の年金給付額を設定し、それに必要な掛金を会社が拠出していく制度 |
非課税期間 | 運用期間中 ※受取開始年齢(60〜75歳)まで | 無期限 | 原則60歳 ※ただし、企業によって 規約に定めることで、加入可能年齢が異なる。 | 運用期間中 |
所得控除 | 全額所得控除 | なし | 全額所得控除 | 全額所得控除 |
税制面の優遇 | ・掛金が全額所得控除 ・運用益が非課税 ・受取時の税額控除 | 運用益が非課税 | ・掛金が全額所得控除 ・運用益が非課税 ・受取時の税額控除 ・社会保険料の算定基礎の対象外 (会社側) | ・掛金が全額所得控除 ・運用益が非課税 ・受取時の税額控除 ・社会保険料の算定基礎の対象外 (会社側) |
資金の引き出し | 原則60歳以降 | いつでも売却可能 | 原則60歳以上 (年金資産の持ち運びは可能) | 退職時に一時金の受け取りや移管が可能 |
iDeCo vs NISA
iDeCoとNISAの比較では、まず投資目的に注目します。
NISAは幅広い層に向けた一般的な投資目的で利用されますが、iDeCoは退職金のための資産形成を主な目的としています。
税制の面では、NISAの運用益(配当金や売却益)は非課税ですが、掛金に対する所得控除はありません。
対して、iDeCoでは掛金が全額所得控除の対象となるため、税額が直接的に減少し、さらにその運用益も非課税となります。
利用期間の制限も重要な違いです。NISAは、新制度により、非課税保有期間が無期限となり、積立期間中でもいつでも売却できます。
一方、iDeCoは65歳までの長期的な投資が可能で、原則60歳以降に受け取る際に税制優遇が適用されます。
また、金融商品の選択面では、NISAでは株式や投資信託など幅広い商品が選べますが、iDeCoは主に運営管理機関が提供する特定の年金向け商品に限られるため、選択肢が限定的であることも異なります。
iDeCoは、老後の安定した資産形成に特化しています。
資金にあまり余裕がないときはいつでも売却できるNISA、資金に余裕が出てきたらNISAに加えてiDeCoも活用すると良いですね。
iDeCo vs 企業型年金
企業型年金とiDeCoの最大の違いは、加入資格です。
企業年金はその企業に勤務している従業員のみが加入できる一方、iDeCoは勤務先に関係なく、自営業者やフリーランスも含めた任意の個人が加入可能です。
運用の自由度においても、企業年金は企業が運用ポリシーを決定し、個々の従業員には運用方法の選択権がほとんどありません。
一方、iDeCoでは加入者自身が投資の選択ができ、より柔軟な資産運用が実現可能です。
税制面では、企業年金も所得控除などの税制優遇を提供しますが、iDeCoは掛金全額の所得控除に加えて運用益の非課税、受け取り時に大きな控除枠を利用できるため、より大きな節税効果があります。
企業型DC、iDeCoは共に所得控除と退職所得控除の対象となりますが、選択制の企業型DCは社会保険料控除の対象となり月々の社会保険料の支払額を圧縮する事にもつながります。
社会保険料の金額が減ると、健康保険料、雇用保険料、厚生年金保険料の金額が減るため、以下の給付額に多少影響が出ることを考慮しなければなりません。
企業型DC、DBとiDeCoは併用可能なため、メリットを最大限活用しましょう。
軽される税額のシミュレーション
iDeCoの節税効果は、掛金の額や所得税率、住民税率によって異なります。
この章では、異なる年収と職業を持つ三人のケーススタディを示し、それぞれの節税額を見ていきましょう。
事例1: 年収300万円のサラリーマン
月額掛金: 20,000円(年間240,000円)
所得税率: 10%
住民税率: 10%
年間の節税額: 所得税で24,000円、住民税で24,000円、合計48,000円の節税が可能です。
事例2: 年収600万円の自営業者
月額掛金: 68,000円(年間816,000円)
所得税率: 20%
住民税率: 10%
年間の節税額: 所得税で163,200円、住民税で81,600円、合計244,800円の節税が可能です。
事例3: 年収1000万円の企業役員
月額掛金: 23,000円(年間276,000円)
所得税率: 23%
住民税率: 10%
年間の節税額: 所得税で63,480円、住民税で27,600円、合計91,080円の節税が可能です。
上記の事例から、iDeCoへの掛金がいかに所得に応じて税負担を効果的に軽減するかがわかります。
iDeCoへの加入手続き方法
iDeCoへの加入手続きにはいくつかの重要なステップが含まれます。
まず、加入資格を確認します。20歳以上65歳以下であり、日本国内に住所を有することが必要です。
必要書類としては、身分証明書、住民票、年金加入証明書などがあり、事前に準備しておきましょう。
申し込みはオンラインまたは郵送で可能で、オンラインでは専用サイトから、郵送では必要書類を添えて送付します。
加入後は掛金の振り込み方法を設定し、運用商品を選択します。
また、年末調整や確定申告では、iDeCoの掛金を所得控除として申告することで税額が軽減されます。
上記のプロセスを通じて、効率的に節税しながら、将来の安定した資産形成を図ることが可能です。
まとめ
この記事では、iDeCoがいかに多様な職業の方々に対して有効な退職金貯蓄オプションであるかを説明しました。
掛金の所得控除、運用益の非課税、そして受け取り時の税制優遇という三つの節税メリットを最大限に活用することで、将来の安定した資産形成を図ることが可能です。
iDeCoを利用することで、より豊かな老後を迎えるための一歩を踏み出しましょう。